野付半島のつけはんとう

知床半島と根室半島の間に位置し、標津町の南からエビが背を曲げたように根室海峡に突き出た半島で、全長約26kmの日本最大の砂嘴(さし)*1。その幅はもっとも細いところで130mぐらいしかない。海岸線は野付湾側が入り組んでいるのに対し、海峡側は単調である。半島の大部分は平坦で草原と湿原で占められ、湾沿いの一部にミズナラ・ダケカンバなどの林が見られる。海峡側からは16km先に浮かぶ国後島を望み、先端部の龍神岬には野付埼灯台が立っている。半島の気候は夏は冷涼で霧が多く、冬は降雪量が比較的少なく晴天も多いものの、風が強く極寒となる。春秋は比較的穏やかだが、目まぐるしく天気が変化する場合もある。
 半島中央部の野付湾側には、かつてはトドマツの立ち枯れた「トドワラ」*2の荒涼とした景観が広がっていることで知られていたが、現在は地盤沈下と浸食などにより消滅の危機にある一方、原始林オンニクル、ポンニクルではミズナラなどが立ち枯れた「ナラワラ」*3と呼ばれる景観が広がっている場所もみられる。
 特異な地形と気候から多彩な植生を見せ、6月中旬より海岸沿いにセンダイハギ・エゾカンゾウ・ノハナショウブが一斉に咲き誇り、7月中旬にはハマナスも花開き、先端部の野付埼灯台付近は原生花園*⁴となる。ミズナラ・ダケカンバ・ナナカマド・エゾイタヤの植生も見られる。また、季節に応じ、タンチョウ、ベニマシコ、オオジュリン、オオワシやオジロワシなど多くの野鳥が訪れ、バードウォッチングスポットとしても知られている。
 野付湾では夏にはゴマフアザラシの60頭ほどの群れが見られ、観光船*5などからも浅瀬で休む姿を観察できるほか、付近の海域ではネズミイルカ、カマイルカ、ミンククジラなどが現れる。動物もエゾシカ、キタキツネ、オコジョ、イイズナ、ヤチネズミなどが棲息しており、道路や展望台から目にすることもある。昆虫類も豊富でノサップマルハナバチはこの地域でしか見られない珍種である。
 なお、野付半島には路線バスなどの公共交通機関はない。
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みどころ

国道244号線の標津町側から道道「野付風連公園線」(通称『フラワーロード』)に入ると、半島を真っ直ぐに貫く一本道が続く。漁業や工事関係の建物が点在する以外は砂浜、干潟、草原、湿原、森林しか目にするものはなく、左右に野付湾、根室海峡が遮るものなく広がる。半島の中央部にいたると、根室海峡側の眼前に意外と思うほど近くに国後島が見えることに驚かされる。最果て感が強く、荒涼とした風景ともいえるが、北海道らしい自然の豊かさを実感できるところでもある。ツーリングやサイクリング、ドライブにも格好。
 植物、昆虫、野鳥などの観察や散策の起点は半島中央部の野付半島ネイチャーセンターとなり、トドワラに向け、約1.3kmの遊歩道も整備されている。春から秋にかけてはトラクターバス*6がトドワラまで運行され、ガイドツアーも催行されている。
また、先端部近くの野付埼灯台近くにも駐車場や遊歩道があり、灯台見物や原生花園の見学に都合が良い。その先も草原、湿地が広がるが、立入禁止となっている。
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補足情報

*1砂嘴(さし):国土地理院の定義では「湾に面した海岸や岬の先端などから細長く突き出るように伸びている砂礫質の州で、付近の海食崖付近で生産された砂礫や流入河川が運搬した砂礫を、沿岸流と波の作用によって運ばれて作られる」としている。
*2「トドワラ」:半島には江戸時代の中頃まで、トドマツ・エゾマツ・ハンノキ・カシワなどの樹種から成る原生林があったが、半島周辺の地盤沈下に伴い海水が浸入、立ち枯れの森林となった。トドマツが立ち枯れた湿地の原をトドワラと呼び、ミズナラなどの立ち枯れた林を「ナラワラ」と称している。トドワラの見学は、半島中央部にある野付半島ネイチャーセンターから1.5km。対岸の尾岱沼漁港からは観光船が就航している。
*3「ナラワラ」:半島の中央部にある展望台などから遠望できる。ナラワラの散策はできない。
*4原生花園:灯台付近の原生花園は散策はできないが、駐車場から眺めることができる。
*5観光船:国道244号線から尾岱沼側に少し入った尾岱沼漁港から出港している。5月〜10月末まで(期間中無休)。野付半島トドワラへ行くトドワラコースを1日1便就航。就航時間などは事前確認が必要。これ以外にも季節に応じ、アザラシウォッチングコース、潮干狩りコース、国後ウオッチングクルーズなどがあるが、いずれも事前の予約が必要。
*6トラクターバス:5月から10月に運行。ただし、随時運行で、不定休なので事前確認を。