黒川温泉くろかわおんせん

熊本県北部の阿蘇郡南小国町、九州自動車道熊本ICから車で約1時間10分、大分自動車道日田ICから車で1時間にある。阿蘇くじゅう国立公園に隣接し、大分県との県境に位置する。
 標高700mの田の原川渓谷沿い直径5km圏内に、旅館と店舗がそれぞれ約30軒ずつの閑静な山あいに位置する小さな温泉郷で、熊本を代表する温泉地のひとつとされる。
 江戸時代中期には湯治場として知られ、肥後細川藩の国境付近にあることから藩の役人も利用する御客屋として位置づけられ、明治になり廃藩置県が行われた後も、けがによく効く温泉として半農半宿の営みが続けられた。1961(昭和36)年に6軒の旅館により黒川温泉観光旅館協同組合が設立され、「露天風呂を集めた温泉街」というコンセプトのもと黒川温泉郷としての歴史が始まる。1964(昭和39)年に開通したやまなみハイウェイで観光客が一時的に増えるものの各施設は厳しい経営を迫られる中、Uターンや婿入りの二代目、三代目が都会での経験を活かして新しい温泉郷の姿を探るなど、若い感覚による試みが始まる。1980年代に秘境温泉ブームが起こると、黒川温泉は徐々に知られるようになる。1986(昭和61)年に旅館組合を再編成し、黒川の全ての露天風呂が利用できる「入湯手形*」を発案して「露天風呂めぐりの黒川温泉」というブランドが作られる。各宿が持つ露天風呂を自由にめぐる入湯手形の仕組みは、多くの温泉地の手本となった取り組みの一つで、1990年代には多くのメディアに取り上げられ、露天風呂の黒川温泉は全国的な人気となった。2021(令和3)年に黒川温泉観光旅館協同組合は設立60周年を迎え、「黒川温泉一旅館」として現在も地域全体で魅力づくりに取り組んでいる。
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みどころ

黒川温泉は日本の温泉の10種類ある泉質の中で7種類*が湧出する珍しい温泉地で、旅館毎に泉質が異なる。さっそく地元小国杉を使った丸くてかわいらしい入湯手形を手に入れて、露天風呂巡りをしたい。山里の立地を活かした風情ある露天風呂が、身も心も癒してくれる。
 食べ歩きや散策も魅力のひとつ。温泉街を歩いていると、建物の形状や色使いが揃えられ全体で景観づくりをしていることに気がつく。田の原川に架かる丸鈴橋からは、黒川温泉を代表する美しい景色が望める。
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補足情報

*入湯手形:1986(昭和61)年当時、露天風呂を持たない宿が2軒あり、その宿泊客が他の宿の露天風呂を利用できるように考案されたのが入湯手形の始まり。入湯手形1枚につき、25ヵ所の露天風呂のうち3ヵ所に入浴できる。3ヶ所のうち1ヵ所は飲食やお土産にも利用できる。6ヶ月の有効期限があるので、一度で使い切れなくても期限内であれば使用できる。各旅館や旅館組合で購入する。
*温泉の泉質:温泉に含まれている化学成分の種類とその含有量により、単純泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、二酸化炭素泉、含鉄泉、酸性泉、含よう素泉、硫黄泉、放射能泉の10種類に分類される。黒川温泉にはこのうち単純泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、含鉄泉、酸性泉、硫黄泉の7種類が湧出している。