長門峡ちょうもんきょう

長門峡*は山口市の北東部から萩市南東部をまたいで流れる阿武川を中心とした溪谷。北から流れる阿武川と南から流れる篠目川が合流する「道の駅長門峡」近くの丁字川出合淵から、下流の竜宮淵までの約5kmには遊歩道がありみどころとなっている。この渓谷は火山活動で生成された火山岩(流紋岩、安山岩)や凝灰岩などからなり、北西方向から侵食を進めた阿武川が、徳佐盆地(山口市阿東)北東部の火山活動で堰止められてできた古徳佐湖の水を排水することで流域を拡大した。その際に谷を深く刻み両岸に断崖絶壁を形成したと考えられている。川底には岩石がむき出しになっており、滝や甌穴(おうけつ)*や淵などの地形が随所にみられる。
 JR山口線長門峡駅から200mほどのところある「道の駅長門峡」の脇から遊歩道に入ることができ、竜宮淵まで5.1kmが渓谷沿いに整備されている。中原中也*の詩碑がある入口から1.5kmほどは平坦な道だが、千瀑洞口辺りからは険しくなり、榧(かや)ヶ淵・舟入・獺(かわうそ)淵などみどころがつづき、休憩所の鈴ヶ茶屋に至る。さらに坊主岩・佳景淵・和留瀬と見て景勝地紅葉橋に着く。ここから第一断魚瀑を下に見て北海洞門をくぐり、第二断魚瀑を経て竜宮淵まで約600m。
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みどころ

深い谷ではあるものの、迫りくる狭隘感はなく、広濶で明るささえ感じさせる。俳人・随筆家の河東碧梧桐は「淵といひ、瀞といふ深潭の美は、三段峡と長門峡の相對する互角の相撲である」として、急瀬の後にくる紺碧の鏡面は「深潭の神秘」とし、長門峡の特色に淵をあげている。とくに「龍宮(淵)は潭中の大潭であり、岩石の配置にも奇工がある」ともしている。こうした淵に対し、第一、第二断魚瀑の急瀬や滝なども見られ、遊歩道の道中は変化に富んだ景観といえよう。新緑もよいが、紅葉期には淵、急瀬に鮮やかな色が映え、美しい景観を生み出す。
 遊歩道は、アップダウンもあり、狭隘なところも多いので、足回りはしっかりと整えることをお勧めしたい。
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補足情報

*長門峡: 日本画家、林学・地質学の専門家であった高島北海によって、1920(大正9)年にそれまで「長門耶馬渓」などと称されていたが、「長門峡」と命名された。
*甌穴:岩盤上の小さな凹所に入った石が、水流によって回転し、しだいに大きな穴を造って生じる。
*中原中也:上流の道の駅長門峡側の遊歩道入口付近には、山口市出身の詩人中原中也の「長門峡に、水は流れてありにけり。寒い寒い日なりき。」ではじまる「冬の長門峡」の詩碑が立っている。長男を亡くした失意を託した詩だという。