太田川(下流)おおたがわ(かりゅう)

太田川は広島県西部に位置し、廿日市市の冠山(標高1,339m)に源を発し、支流を集めて流下、広島市街地に入り太田川放水路と旧太田川に分流し、旧太田川はさらに京橋川、猿猴川、天満川、元安川に分流し、広島湾に注ぐ。全長は103km,流域面積は1,710km2。流域の支川・本川は樹枝状に流れるのが一般的だが、太田川は、支川は北東から南西方向の断層に沿って、本川は断層に直交して流下するため、格子状になっているという特徴がある。
 下流部は、日本でも有数の三角州(デルタ)地帯を形成しており、このデルタ域に広がる広島市は、市街地面積に占める水面の比率が全国屈指の高さであることから水の都とも呼ばれる。太田川では、まだ日本の河川整備が治水重視で景観への配慮がほとんど行われていない時代、1979(昭和54)年から都市の水辺空間の整備が始まった*。現在では、水辺に近づきやすいように工夫された階段状の親水テラスや、河川敷を活用したオープンカフェなど、市民や観光客の憩いの場を創出、周辺の原爆ドームや平和公園などとの景観にも調和している。
 また、太田川は、江戸時代から舟運による物資輸送が盛んに行われてきた。干満の差が大きな太田川では、より長い時間船着き場として利用できるよう、雁木(がんぎ)と呼ばれる階段状の荷揚げ場が多く作られ、特有の景観を形成している。現在も、この雁木を結ぶ水上タクシーや、主要スポットをつなぐ遊覧船など、形を変えた舟運が行われている。
 太田川の分流の元安川では、1945(昭和20)年8月6日に原爆が落とされた際、熱線や放射線・爆風で傷ついた多数の被爆者たちが水を求めてこの川まできて亡くなったため、毎年8月6日夜には犠牲者を弔う灯籠流しがおこなわれる。
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みどころ

太田川下流デルタ域の川沿いにはリバーウォークの案内板が点在、川のある風景を楽しみながら散歩することができる。原爆ドームの対岸に位置する元安川親水テラスは、平和への祈りをささげる水辺として親しまれている。太田川を眺めながら飲食を楽しめる水辺のオープンカフェも訪れたい。水面、遊歩道、オープンテラスといった繋がりが、開放的で心地よい。
 また、地上からだけでなく、遊覧船や世界遺産航路(原爆ドーム-宮島間)、雁木を結ぶ水上タクシーなど、水面からの太田川も楽しみたい。干潮時と満潮時の水位の差にも注目。
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補足情報

*太田川基町護岸において、景観学者である中村良夫が主体となり、当時としては画期的な表情豊かな景観づくりに視点を置いた都市の河川景観設計が行われた。この取組みが、河川整備の新たな方向性を導き出したと言える。