北木島の石材きたぎしまのせきざい

岡山県西部の笠岡港から約26kmにある北木島*は、古くから良質の御影石の産地として知られる。江戸時代初期の大坂城修築の際には、大量の石垣石を送り出している。北木石は白色を主とした中粒の黒雲母花崗岩で、「中目」、「瀬戸白」、「瀬戸赤」、「サビ石」の4種類があり、「中目」が最も多い。断層により比較的大きな固まりとして島が形成されたため、結晶の分布が均一で色調が安定しており、節理が発達していることから長尺材が切り出せることに定評があった。粘りがあって加工しやすく、石工にも好まれた。内陸の道路網が未整備だった時代に、海運を利用して全国に販路を拡げ、明治以降、石材の採掘が本格化すると、銘石の一大産地として名を馳せた。日本銀行本店本館、三越本店、靖国神社大鳥居、京都五条大橋、伊勢神宮の石灯籠、薬師寺西塔など、多くの建築物に北木石が使用されている。
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みどころ

最盛期に127か所あった採石場は、安価な外国材にシェアを奪われ、現在では2か所のみとなった。島の北岸、豊浦地区・金風呂地区には、採石場(跡地を含む)、丁場湖*、採石の端材を利用した護岸などが点在し、「石の島」として繁栄を極めた往時を偲ばせる。 
 金風呂港近くにある稼働中の採石場は、1892(明治25)年に開かれ、現在では海面下70mの深さまで掘られている。地上60mの高さにある展望台から見ると、危険と隣り合わせの現場の厳しさが伝わってくる。これほどの断崖絶壁を、カメラに全体を納めきれないほど間近で見ることはなかなかなく、その迫力に圧倒される。丁場湖のほとりにある、採石道具を手入れする「ふいご小屋」や、採石で出た端材を巧みに組み合わせて築かれた護岸も、独特の景観を創り出しており、注目される。
 元石材工場を活用した複合施設では、北木石の歴史や島の暮らしを紹介しており、昔の映画館では北木石に関するドキュメンタリー映像を鑑賞することも可能。かつて採石場で歌われていた作業歌の「石切唄」が、保存会により継承されている。
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補足情報

*北木島:笠岡港の南約14km(航路は約26km)にある面積7.5km2の笠岡諸島最大の島。人口931人(2022年)。山がちで平地に乏しく、主要な集落は北岸の「豊浦」「金風呂」、東岸の「大浦」、南岸の「丸岩」に形成されている。笠岡からは金風呂・豊浦へはフェリーで約1時間、大浦へは旅客船で55分(高速艇36分)。
*丁場湖:操業を停止した採石場跡に雨水が溜まって湖のようになったもの。