加茂大祭かもたいさい

岡山自動車道賀陽ICから北東へ11kmにある加茂総社宮は、宇甘川のほとりに鎮座する。境内には樹齢500~600年のスギ、ヒノキ、イチョウの巨木がそびえ、歴史を感じさせる神社である。本殿は江戸時代中期のものといわれ、大祭のとき、神輿を安置する長床を左右に配している。
 毎年10月第3日曜日に行われる大祭は、旧加茂川町(現、吉備中央町*)内の8つの神社が総社宮に集う、寄宮祭(よせみやまつり)という珍しい形式の祭りである。大祭当日は、早朝から、鴨神社・化気(けぎ)神社・松尾神社・日吉神社・素盞嗚(すさのお)神社・八幡宮・天計(あまはかり)神社・三所(さんしょ)神社の8社が、神輿行列を整えて総社宮へ集合し、総社を交えた9社で大祭が行われる。「お遊び」と呼ばれる芸能奉納と、一列に並んだ神輿が一斉に差し上げられる「御神幸」を見ようと、大勢の見物客で賑わう。
 加茂総社宮の社伝によれば、天喜年間(1053~58年)にこの地方一帯に悪疫が流行した際、神威によって悪疫が祓い除かれたことに感謝するため、付近の12社が総社に参集したことに始まるという。戦国時代にいったん途絶えたが、江戸時代の享保年間(1716~36年)に再興され、千年近い歴史をもつ。8社を統制するため、総社宮までの道順や、総社宮への参入と退出の順番など、古来のしきたりに従って執行される。大祭前の9社会議で前年度の反省点を振り返り、その年の大祭に向けて規則の確認と改定を行う。
 神社の向かいにある「お祭り会館」では、加茂大祭についての映像やパネル、実際に使用されていた神輿などを展示している。
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みどころ

大祭当日は、午前7時から始まる入御(お入り)に合わせ、遠方の神社は午前2時に総社宮へ向けて出発する。笛や太鼓を鳴らしながら行進するが、神輿をはじめ大型の道具は総社宮近くまでトラックに載せていく。総社宮に到着し入御の番になると、奴練りや獅子舞が露払いをしながら、社名旗を先頭にのぼりや提灯、武具、楽器を手にした行列が続き、最後に神職と神輿が鳥居をくぐる。入御が行われているあいだ、見物客は境内へ入ることはできない。祭の秩序を守るため、鳥居付近の桟敷で各社2名の総代が祭の進行を指揮し、6尺(約1.8m)の青竹を持った股引きに半纏姿の警固が行列の誘導や周辺の警備を行う。
 午前11時頃までに8社の入御が終わるとしばし休憩となり、正午から東西の長床の前で「お遊び」という神事が行われる。薙刀を回して悪魔払いの仕草をする「太刀振り」、天狗や鬼の面をつけ棒で術を交わす「棒使い」、獅子頭を持つ人が胴体になる人の肩に乗り高さ比べをする「継ぎ獅子」などが行われる。「お遊び」が終わると、いよいよクライマックスの「御神幸」が始まる。東西の長床から8社の神輿が繰り出し、随神門前に横一列に並び、「ウオーッ」という声とともに高さを競うように神輿が差し上げられる。総社の宮司が幣(ぬさ)を左右に振ると神輿は一斉に降ろされ、掛け声とともに低く高く揺さぶられながら、元の長床へ納められる。最後に、総社より8社へお供えの行事が行われると、13時半から還御(お立ち)がはじまる。各神社へ着く時間は、早い神社で16時、遅い神社では20時頃となる。
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補足情報

*吉備中央町:2004(平成16)年に上房郡賀陽町と御津郡加茂川町が合併して誕生。郡名は新たに加賀郡とされた。
※岡山県内では、岡山市の吉備津神社「七十五膳据神事」、吉備中央町(旧賀陽町)の「吉川八幡宮当番祭」とともに「県下三大祭」と称される。