奥津温泉おくつおんせん

岡山県北部、鳥取県境の鏡野町にある、こぢんまりした静かな温泉地で、美作三湯*の一つに数えられる。吉井川に架かる奥津橋を中心に温泉街が形成されており、数件の風情ある老舗旅館と素朴な民宿が並ぶ。また、同じく吉井川沿いの大釣、般若寺、川西などの温泉を含めて奥津温泉と呼ぶこともある。温泉の歴史は古く、江戸時代には津山藩が専用の湯治場を設けたといわれる。旅館奥津荘の「鍵湯」は、藩主が一般の利用を禁じ、番人を置いて鍵をかけたことに由来する。源泉の合計湧出量は毎分約1000Lと湯量が豊富であり、温度は35~44度、泉質はアルカリ性の単純温泉で、漂白成分を含み、肌がすべすべになる「美人の湯」として知られている。
 河原には2つの露天風呂があり、1つは「洗濯湯」と呼ばれ、奥津温泉名物の「足踏み洗濯」が行われる。これは、川での洗濯中に野生の熊や狼に襲われないよう、立ったまま周囲を見張りつつ衣類を踏み洗いした風習に由来する。今は観光客向けに、姉さんかぶりに赤いタスキを掛けた絣姿の女性たちが、奥津温泉小唄に合わせてリズミカルに実演する*。
 与謝野鉄幹・晶子夫妻をはじめとする多くの著名人が訪れており、1948~53年頃には棟方志功もたびたび訪れ、独特の画風の絵を残している。また、藤原審爾*の小説『秋津温泉』の舞台であり、映画化(1962年公開)され、奥津温泉の知名度が上がった。
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みどころ

中国山地の懐に抱かれた清流沿いの閑静な温泉地で、文人墨客にも愛された名湯。奥津橋より上流側に並ぶ、昔からの流れを組む老舗旅館では、泉源の上に浴槽を造り、浴槽の底から温泉水が自然湧出している。「源泉かけ流し」のなかでも格別と温泉愛好者の評判が高い。立ったまま入浴できるほどの深さがある「立湯」も有名。お湯は無色透明、少しぬるめで長く浸かっていられる。湯上りには肌がすべすべになるのを実感でき、かつて大手化粧品メーカーがこの温泉成分をもとに化粧品を作ったというのもうなづける。
 1926年に大規模な火災により温泉街を焼失しており、現存する建物は昭和初期以降のもの。昭和レトロの風情があり、河原の露天風呂周辺は湯治場の佇まいを残している。ぜひ宿泊してお湯を楽しみたい温泉地であるが、各旅館では日帰り入浴の時間帯を設けており、日帰り入浴施設「花美人の里」や国道179号沿いに地元の野菜や山菜、特産品がそろう道の駅もあるので、そちらも利用されたい。
 奥津温泉の下流3kmの名勝「奥津渓(おくつけい)」では、花崗岩の節理と侵食による奇岩・滝・甌穴(おうけつ)などが見られ、川沿いに設けられた遊歩道から四季折々の景観が楽しめる。映画「秋津温泉」では、奥津渓沿いの大釣*、般若寺温泉で撮影が行われた。
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補足情報

*美作三湯(みまさかさんとう):岡山県北にある湯郷(ゆのごう)・湯原(ゆばら)・奥津の3つの温泉地。
*洗濯場は2023年8月豪雨により被災し復旧工事中(2024年10月現在)。
*藤原審爾(ふじわら・しんじ、1921~1984):小説家。抒情的な恋愛もので執筆活動をスタートするが、その後は推理小説や社会派の作品にも領域を広げる。「罪な女」およびその他の作品で直木賞受賞。映像化された作品も数多い。
*大釣温泉は休館(2024年10月現在)。
関連リンク かがみの旅とくらし(一般社団法人鏡野観光局)(WEBサイト)
参考文献 かがみの旅とくらし(一般社団法人鏡野観光局)(WEBサイト)
岡山観光WEB(公益社団法人岡山県観光連盟)(WEBサイト)
「岡山県の歴史散歩」山川出版社

2024年10月現在

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