出雲平野の築地松いずもへいやのついじまつ

島根県出雲市の出雲平野に散在する築地松の起こりは定かではないが、郷村社会の成り立ちの頃、この地方の豪族が河川の洪水時に浸水を防ぐため、屋敷の土地の高さを数m高くしたうえ、屋敷周りに土居(築地)を築き、その土居を固めるため水に強い樹木や竹を植えたのが、築地松のはじまりと言われている。
 当初は松以外の木が植えられていたが、痩せた土地にも耐え、根張りも良く強風にも強い黒松が植えられるようになった。黒松が成長するにつれて防風効果が認められたため、特に冬になると北西の強い季節風が吹く出雲平野では、防風林として屋敷を守るために黒松で屋敷の北側と西側の2辺を囲う築地松が定着していったと考えられている。
 築地松は、田畑や屋敷に日陰ができることを防ぐため、4年~5年に一度「陰手刈り(のうてごり)」と呼ばれる剪定作業で刈り込みを行い、木々の保全を行い、かつ美しい景観を生み出している。このような屋敷林は、出雲の屋敷を守るために出雲平野で生み出された、極めて独特な形である。
 築地松は、出雲屋敷を移築し公開している「出雲文化伝承館」でも見ることができる。
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みどころ

築地松の樹齢は50年から150年程度であることが多いが、古いものでは樹齢200年以上で幹周り3m以上というものもある。樹高は8mから12mと屋敷の屋根よりも高く、出雲平野の中で非常に独特な景観を形作っている。春夏秋冬それぞれに異なる趣を見せる築地松の風景はとても風情がある。
 築地松を配した散居風景を眺めると、心が落ち着くのを感じる。築地松をこよなく愛する案内人(築地松案内人)*とともに、長い間、季節風に耐え、家々を守ってきた黒松を近くで見て感じてみるのも楽しい。
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補足情報

*築地松案内人:築地松景観保全対策推進協議会事務局(出雲市役所 建築住宅課内)に事前に申し込みが必要。
*築地松景観保全対策推進協議会:松くい虫の被害や築地松を剪定する職人の不足、生活習慣の変化によって築地松のある散居集落の景観が消滅の危機になったため、平成6年5月に島根県と出雲市(旧出雲市、旧平田市、旧大社町、旧斐川町)及び住民代表で「築地松景観保全対策推進協議会」を設立した。築地松散居景観を守っていくため、築地松のフォトコンテストや、ライトアップイベント、情報紙の発行、HP運営などの普及啓発及び剪定や松くい虫防除等にかかる経費の一部助成、陰手刈り技術研修会、黒松苗の無料配布などの保全対策を主に行っている。