一ノ宮倭文神社いちのみやしとりじんじゃ

一ノ宮倭文(しとり)神社は湯梨浜町の東郷湖の東岸、御冠山(みかんむりやま)に鎮座する神社であり、JR山陰本線・松崎駅から車で10分に位置している。倭文(しとり)は「しつおり(倭文織)」という古代の織物の一種のことで、社伝によれば、この織物の産地であったこの地方にちなんで機織りの神である建葉槌命(たけはづちのみこと)を祀って倭文神社となったとされる。さらに、大国主命の娘、下照姫命(したてるひめのみこと)がこの地にて安産の普及に尽くしたとの言い伝えから、下照姫命も祭神に加えられており、現在では安産を祈願する参拝者が多い。
 創立年代は明らかでないが、927(延長5)年に編纂された延喜式*の神名帳(全国神社一覧)に記録が現れている。以降、富田城主尼子晴久、羽衣石城主南条宗勝、鳥取城主池田氏などの歴代の当主の庇護を受けた神社である。本殿は1818(文化15)年に再建されたもので、随身門は1872(明治5)年のものである。
 この神社が一躍有名になったのは、1925(大正14)年に境内の下照姫の墓と呼ばれていた塚から経筒をはじめ、金銅観音菩薩立像等の仏像や銅鏡等*が出土したことである。これらは1103(康和5)年に埋納されたものであり、国宝として東京国立博物館に寄託されている。
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みどころ

社殿、随身門そのものは江戸後期から明治に再建されたものであるが、発掘された経筒等の出土品の価値、自然林が生い茂る静閑とした空間に鎮座することで、古い社の歴史を感じられる神社である。経塚の発掘箇所は随身門右手から200mほどの丘にある。なお、出土した菩薩像等は全て国宝として東京国立博物館に寄託されているため、現地で見ることはできない。
 下照姫命に関する言い伝えとして、境内には「安産岩」と呼ばれる岩がある他、周辺には下照姫命が滞在したといわれる出雲山や東郷湖畔の宮戸弁天がある。この歴史と伝説に満ちた神社で、境内の静かな空間を楽しみたい。
 鳥取から大山、米子へと向かう途上で立寄るのにも適した観光ポイントと言えよう。
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補足情報

*延喜式:養老律令に関する施行細則をまとめた法典である。
*主な出土品:〔国宝〕銅経筒・金銅観音菩薩立像・銅造千手観音菩薩立像・銅板線刻弥勒立像・銅鏡2面・桧扇残片・短刀刀子・残闕瑠璃玉・銅銭2枚・漆器残片(いずれも東京国立博物館に寄託されている。)
関連リンク 伯耆一ノ宮倭文神社(WEBサイト)
参考文献 伯耆一ノ宮倭文神社(WEBサイト)
「鳥取県の歴史散歩」山川出版社,鳥取県の歴史散歩編集委員会編

2024年06月現在

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