太地町は本州の南端、紀伊半島の東側に位置し、三方を海に囲まれている。太地は1600年代から始まった古式捕鯨発祥の地で、現在も地域捕鯨が続けられており、鯨料理は古くから人々の生活に密接に関わってきた食文化である。
　太地で捕鯨が組織的な産業活動として始まったのは、1606（慶長11）年とされている。この年、豪族和田家一族の忠兵衛頼元が尾張師崎（知多半島の突端）の伝次と泉州堺の伊右衛門とともに、太地浦を基地として、銛で鯨を突き取る捕鯨を開始した。その後、1675（延宝3）年に和田頼治が網で鯨を絡め取ってから銛を打つ「網掛け突き取り法」を考案した。これによりザトウクジラなど、死後に沈んでしまう鯨も捕獲することが可能となり、太地の捕鯨は大きく飛躍した。紀州藩の保護もあり、「捕鯨の本場太地」は天下にその名を馳せ、熊野灘の捕鯨は最盛期を迎えることになった。明治に入って西洋式捕鯨法が導入され、やがて古式捕鯨は終焉を迎えた。太地の人々は1936（昭和11）年に初めて南極海捕鯨に出漁したが、沿岸捕鯨は形を変えながら連綿と続けられ、現在も資源調査に基づいて決めた漁期と捕獲枠のなかで捕鯨＊が行われている。また、上記とは別に、商業捕鯨で捕獲した鯨の肉も出回り、町内の飲食店では今も鯨肉の料理を味わうことができる。