入江泰吉記念奈良市写真美術館いりえたいきちきねんならししゃしんびじゅつかん

近鉄奈良線奈良駅から南東へ約2.2km、新薬師寺に隣接する。奈良大和路の風物を生涯、撮り続けた写真家・入江泰吉*1の作品を中心に、写真芸術を鑑賞できる写真専門美術館。入江泰吉の全作品(約80,000点)を所蔵するほか、近代美術写真の先駆者・工藤利三郎*2のガラス原板1,025点や奈良出身の風景写真家などの作品も所蔵している。
 展示室では入江泰吉の収蔵作品を順次展示しているほか、国内外の写真家の作品展や、先駆的な若手写真家の作品展などを随時開催している。また、入江泰吉の代表作を常時鑑賞できるハイビジョンギャラリーや国内外の貴重な写真集を閲覧できる資料室がある。
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みどころ

入江泰吉が奈良大和路の写真を撮ることになったのは、この地が故郷であるとともに、第二次世界大戦の敗戦直後に奈良にある仏像などがアメリカ軍によって接収されるのではないかという噂を知り、持ち去られる前に写真に収めておきたいと思ったことがきっかけだとされる。「飛鳥古京まほろばの自然」を記録しておきたいとの想いが生涯、奈良の写真を撮り続けることになったという。この想いは、展示作品のなかからも汲み取れる。隣接して新薬師寺もあり、周辺の町並みも土塀などに古都の雰囲気が漂い、入江の写真を鑑賞した後、その想いをかみしめるのに格好な散策路だ。
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補足情報

*1 入江泰吉:1905~1992年。奈良市生まれ。昭和初期には、大阪で文楽の写真家として活躍。第二次世界大戦後、奈良へ転居し、以後、奈良大和路の風景、仏像、行事等の撮影に専念。「滅びの美しさ」を情緒的に表現し、とくに風景撮影では極力近代的なものを排し、古代のイメージを重視した。
*2 工藤利三郎:1848~1929年。阿波国(徳島県)生まれ。東京で写真術を身につけたのち、徳島、奈良で写真館を開業。奈良では、古美術・古建築専門の写真館「工藤精華苑」を開いた。撮影場所は奈良の寺社はじめ近畿地方が主であった。ガラス乾板ネガを主としたガラス原板(四切判・キャビネ判)1,025点は国の登録有形文化財(美術工芸品)となっている。