白毫寺びゃくごうじ

JR桜井線(万葉まほろば線)京終駅から高円山に向って約2.2km、高円山の西麓、奈良盆地の眺望が開ける高台にある。境内は広くはないが、本堂と宝蔵などが建ち、本堂右手の池の奥には多宝塔跡や石仏を巡る「石仏の道」がある。創建は、諸説*1あり不詳だが、一説には天智天皇の本願により勤操*2が開基したともいわれ、高円山にあったとされる勤操の開いた石淵寺*3の一院だったともされる。鎌倉時代に西大寺の叡尊*4が中興し、弟子道照が唐より一切経を同寺にもたらしたことにより一切経寺ともいわれ、庶民の信仰も盛んであった。しかし、室町時代以降たびたび戦乱に見舞われ、江戸時代には徳川幕府から50石を扶持されたものの明治に入ると荒廃*5した。現在、江戸時代に再建された本堂、御影堂と1983(昭和58)年に建設された宝蔵があり、宝蔵には本尊の阿弥陀如来坐像*6、地蔵菩薩立像、伝・文殊菩薩坐像、興正菩薩叡尊坐像、閻魔王坐像*7とその眷属司命・司録像、太山王坐像などの仏像を収めている。春には五色椿、秋には萩の花が咲き、奈良市街の眺望が良い。
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みどころ

文芸評論家の亀井勝一郎は1942(昭和17)年に「春日山の近くをめぐって、白毫寺へ行く道筋も美しい。稲が深々と実って、稍々低地に建てられた農家を蔽うばかりである。それが 鬱蒼たる森蔭にまでつづいた豊かなしかも寥々たる風景を私は好む」と、百毫寺近くの雰囲気を記している。いまは、日当たりのよい住宅地となっており、民家が建て込んでいるものの、亀井の描写した風情がところどころに残る。そのなかを高円山に向かい、細い小路のような急坂を登り詰めると、両脇に萩が植えられた参道の石段が現れる。さらにこれを登ると小さな山門。境内は緑に覆われているものの、振り返りみる西方には眺望が開け、奈良盆地から生駒の山並みの眺望が素晴らしい。仏像群は、宝蔵に収蔵されているので、本尊の阿弥陀如来坐像や閻魔王坐像などはじっくり拝観することができる。なお、同寺周辺は道路が狭く、駐車場が少ないので、車で訪ねる場合は注意が必要。
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補足情報

*1 諸説:寺伝では天智天皇の第7皇子志貴皇子の離宮がこの地にあり、その山荘を寺にしたとも伝えられている。志貴皇子がこの地で薨御された際に笠金村(かさのかなむら)が詠んだ「高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人無しに」(高円の野辺の秋萩は、空しく咲いては散っていることであろう。もう御覧遊ばす皇子様もいらっしゃらないで)が万葉集に収載されている。
*2 勤操:754~827年 三論宗の僧。大安寺にて三論を学び、石淵(いわぶち)寺を開創、796(延暦15)年に法華八講(法華経8巻を4日間で講説する法会、「石淵八講」ともいう)を初めて行ったという。
*3 石淵寺:大正期発行の「大和志料」では江戸初期の「和州旧所幽考」に「『高圓山の東に此の寺の跡あり俗に石淵といふ』ト見ユ」とし、開山は三論の名徳である勤操だともしている。盛んな時には「一千ノ堂坊ヲ有セシナリ」とするものの、勤操の没後、「天地院(東大寺の前身)ト恨ヲ結ヒ兵ヲ起シ共二焼失ノ後再興ナカリシト云フ」としている。
*4 叡尊:1201~1290年。鎌倉中期の律宗の僧。律宗の中興の祖といわれ、西大寺を本拠として戒律の復興に尽力。貧民・病人の救済にも注力した。鎌倉幕府北条家からも信を寄せられていた。
*5 荒廃:江戸中期の「大和志」では「正堂地蔵堂多寶堂僧舎二宇」としているが、明治中期の「和州社寺大観」によると、当時の状況を「境内又草ヲ生シ足ヲ容ルル處ナシ嗚呼千二百三十有餘年継續セシ名刹或ハ一時變シテ狐狸の巣窟ト爲ルモ知ルヘカラス惜ムヘシ」とするほどだったと記録している。近年、整備が進み、往時の面影を多少なりとも取り戻している。
*6 阿弥陀如来坐像:像高136.5cm。檜の寄木造、漆箔。平安期に生まれた和様の仏像彫刻の様式である定朝式。柔和な容姿で上品に仕上げられているといわれている。江戸初期の「和州寺社記」などでは仏師春日の作としている。
*7 閻魔王坐像:像高118.5cm。鎌倉時代の寄木造、彩色の像。冥府を司る閻魔王を迫力のある彫法で表わし、その眷属(けんぞく)である太山王(たいざんおう)・司録(しろく)・司命(しみょう)の諸像と一具になっている。一具同時期に造られたとされるが、複数の仏師によるものらしく、太山王坐像は運慶の孫・康円の作。
関連リンク 一般財団法人奈良県ビジターズビューロー(WEBサイト)
参考文献 一般財団法人奈良県ビジターズビューロー(WEBサイト)
白毫寺パンフレット
佐佐木信綱 「万葉集(現代語訳付)」Kindle版
亀井 勝一郎「大和古寺風物誌」Kindle 版
「和州寺社記」75/108 国立国会図書館デジタルコレクション

2024年12月現在

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