多田神社ただじんじゃ

能勢電鉄多田駅から西へ約2kmのところにある。清和源氏一門の祖廟として970(天禄元)年に源満仲*1が創建。もとは多田院と号し、別称として鷹尾山法華三昧寺とも呼ばれた。その後、金堂・塔婆・学問所・法華堂・常行堂・御影堂等が造営され、源満仲・頼光*2の廟所があったことから、源氏姓を名乗る北条・足利など武家諸侯の信仰が篤く隆盛を誇っていたが、中世末に一時衰退した。
 江戸時代に入り、寛文年間(1661~1673年)には源氏姓を称する徳川家綱(江戸幕府第4代将軍)によって権現造りの本殿*3・拜殿*4・随神門*5や釈迦堂等が再興された。1696(元禄9)年には多田権現の神号を受け、神社の要素が強まり、元多田院あるいは多田大権現と呼ばれ武家をはじめ広く崇敬を集めるようになった。満仲の遺言「当院の鳴動を以て、兼ねて応に四海の安危を知見すべし」とする「多田院の鳴動」*6でも知られる。
 明治期の神仏分離令によって多田神社と改められた。祭神は源満仲・頼光・頼信・頼義・義家*7。
 同社は猪名川に臨み、対岸とは朱塗の橋で結ばれ、約5万3千m2の境内にはうっそうとした木々が茂り、その中に社殿や宝物館が並び、本殿の裏手には、源満仲・頼光の廟所があり、足利歴代将軍の分骨も納められ、禁足地となっている。
 なお、境内は拝殿前までは自由に拝観できる。
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みどころ

猪名川に架かる朱塗りの橋を渡ると、石段の上に南大門が建つ。明治期の神仏分離以前は、この門には仁王像が安置されていたというから、さぞ、上からにらみを利かせていたのではないかと思う。南大門をくぐると、境内全体に木々が繁茂し、それだけで十分に荘厳な雰囲気が漂う。随神門からは完全に神社の雰囲気となり、檜皮葺の拝殿は、江戸時代の造営で質素ではあるが、伸びやかな屋根で気品のある建物となっている。拝殿脇には大輪の花を咲かせる唐椿*8がある。
 本殿には昇殿はできないが、間近にすると、拝殿と同じく質素で気品があり、二の宮 源頼光薨去1000年の記念事業として創建当初の姿を取り戻す飾り金具が取り付けられたことにより、ひと際輝きをみせている。本殿の裏手は満仲、頼光の廟所で、廟所内は禁足地なので入れないが、手前の拝所からでも奥深い森が霊域の雰囲気を増しているのが感じ取れる。かつては五輪塔もあったとのことだが、神仏分離の際に取り払われたとのことだ。
 寛政年間(1789~1798年)編纂の地誌「摂津名所図会」には見開きの挿絵で「多田院神廟」「多田院釈迦堂」の2枚掲載され、「實も當院は風色眞妙して、鷹尾山の皓(こう)月、多田川の清流、南に廣野を臨み、村落道斜又佳境にして閑静を慰(る)するに足れり」として、いかに風情のある立地かを記している。現在は一部住宅街や工場が迫っているものの、境内に入れば、「摂津名所図会」の雰囲気を今に遺しているといえよう。清和源氏の祖廟を訪ね、武家の歴史に想いを馳せるのも悪くない。
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補足情報

*1 源満仲:912~997年。清和天皇の曾孫。清和源氏の祖。摂津国多田を拠点として、諸国の受領を歴任し、摂関家との結びつきを強め、鎮守府将軍となり、軍事力を背景として貴族の地位を築いた。
*2 頼光:948〜1021年。満仲の長男。摂津守など受領を歴任、藤原道長に仕えた。武名は高く、大江山の酒呑童子退治など多くの伝説伝承が残る。
*3 本殿:1667(寛文7)年造営。桁行五間、梁間三間、入母屋造、檜皮葺。
*4 拝殿:1667(寛文7)年造営。桁行七間、梁間三間、入母屋造、檜皮葺。
*5 随神門:1667(寛文7)年造営。三間一戸八脚門、切妻造、本瓦葺
*6 「多田院の鳴動」:廟所が鳴動して事変の急を天下に予告したと言い、とくに佳例・吉例が多いとされ、室町幕府第4代将軍足利義持からは「鳴動の事、佳例たる上はいよいよ祈祷精誠をぬきんずの状、件の如し」という御判御教書(室町幕府将軍が加判して発行した文書)が出されている。同社の縁起によれば、源頼朝時代からあったとされるが、主に室町時代に多く、足利氏が源氏の末裔としての箔付けに利用しようと企図されたという説もある。
*7 義家:1039~1106年。満仲の曾孫。前九年の役(1051〜1062年)、後三年の役(1083~1087年)で奥州鎮定に活躍した。源頼朝や足利尊氏の祖先にあたる。
*8 唐椿:キャプテンローともいう。中国雲南省を原産とする亜熱帯植物。寛文年間(1661~1672年)多田院の檀家でもあった薩摩藩島津家より贈られた。4月上旬に10cmほどの淡紅色の花が咲く。木の高さは約7m。
関連リンク 多田神社(WEBサイト)
参考文献 多田神社(WEBサイト)
「多田院・本殿・拝殿・随神門」文化遺産オンライン(文化庁)(WEBサイト)
「大日本名所図会 第1輯第6編摂津名所図会 摂津名所図会. 上、下巻」大正8年 50~52/310 国立国会図書館デジタルコレクション
「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川出版社・「旺文社日本史事典 三訂版」源満仲・頼光・義家
多田神社境内案内板

2025年03月現在

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