香住海岸・但馬御火浦かすみかいがん・たじまみほのうら

山陰海岸は、日本の国土が大陸から分離して日本海が形成され、その後に火山活動やマグマの貫入などによる地殻変動により生まれた地形と地質が、長い年月の風化・海食をうけ、奇岩絶壁を呈する海景となったもの。このため、山地が直接海に接するリアス海岸となっており、地質的にも玄武岩・安山岩・流紋岩などの火山岩や火山砕屑岩と礫岩・砂岩・泥岩などの堆積岩、さらには花こう岩も見られ、多様な地層の重なる地質構造から海食崖、海食洞、岩礁などが発達している。
 そのなかでも兵庫県北部にある香住海岸と但馬御火浦(たじまみほのうら)は、典型的なリアス海岸で、多彩な岩石海岸が展開している。
〇香住海岸は香住湾を中心として長さ15kmほどで、東には今子浦・かえる島・五色洞門・白石島などの景勝地があり、西に向かえば、但馬松島・鎧の袖*1・鷹の巣島・孔雀洞門・百層崖・めがね洞門(窓島)などの奇勝があって、余部*2の西、伊笹岬あたりで但馬御火浦の海岸線に接続している。いたるところに奇岩・洞窟・断層を呈しているが、陸路から近づくことができないところも多いため、海上からの探勝が中心となる。また、入江には砂浜も形成され海水浴場となっているところもあり、変化に富んだ磯では四季を通じ釣場として人気がある。海上からの探勝には、遊覧船はなく、香住東港から海上タクシー*3の利用となる。4月末~9月末の運航。
〇但馬御火浦*4は浜坂海岸の一部、浜坂港付近から東の伊笹岬までの10kmほどの一帯で、伊笹岬付近で東の香住海岸と接続している。この但馬御火浦の海食された海岸には釣鐘洞門*5・旭洞門・下荒洞門・龍宮洞門などと名付けられた大洞門が随所にあり、三尾大島*6・亀島などでは規則正しく発達した柱状節理が見られる。また、但馬御火浦の西、浜坂港付近の海岸線は延長1kmほどの砂浜が延び、海浜公園になっている。この海岸線は但馬御火浦の名称の元となった三尾港以外は、陸路から近づくことは難しいため、海上からの探勝が中心となる。海上からの探勝には、遊覧船はなく、三尾港から海上タクシー*7の利用となる。5月~9月末の運航。
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みどころ

香住海岸では、海水浴、マリンスポーツ、釣り、新鮮な魚料理(とくにカニ)などマリンレジャーとして多くのことが楽しめるが、特異な海景を楽しむとなれば、やはり海上からの探勝が欠かせない。鎧の袖、百層崖、めがね洞門などの海食崖や海食洞の自然の造形のユニークさに驚くとともに、地学に興味を有する向きには、教科書に出てくるような景観を目の当たりにできる。
 但馬御火浦の中心の三尾大島付近の探勝は、陸路からでも可能だ。ただ、三尾の集落のなかは道路が狭く駐車するところも少ないので注意が必要。さらに東の余部に向って、海食崖上の丘陵を走る林道があり、ところどころ展望所はあるが、狭い道なので道路状況を事前に確認する必要がある(2023年8月現在は通行止め)。このため、特異な海景を楽しむとなれば、やはり海上からの探勝が欠かせない。とくに釣鐘洞門への入洞は、その巨大さに驚かされるとともに流紋岩と玄武岩の岩脈が交差して生成されたことも観察できる。
 いずれの海岸線も海上からの探勝には遊覧船はなく海上タクシーでの探勝となるので、事前の予約が必要だ。小型漁船での探勝なので、海食崖・洞門を間近まで接近、あるいは入洞してくれて、迫力ある景観を存分に楽しめる。
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補足情報

*1 鎧の袖:高さ65m、幅約200m、角度70度の大岩壁。日本海の形成期に生成された地層中にマグマが貫入し、そのマグマが固まる際に縦方向に伸びた割れ目が垂直に交わってできたため、ちょうど鎧の縅(おどし:鎧の材料を糸で綴りとじること)のように見えるためこの名が付いた。香住海岸のみどころのひとつ。
*2 余部:鎧の袖がある鎧湾の西側の入江で、かつては入江の奥の集落の上をJR山陰本線の高さ約41mの余部鉄橋が掛けられていたことで知られる。現在は、コンクリート製の橋脚となっているが鉄橋の一部が残されている。残された鉄橋には地上から展望エレベーターで昇ることができ、日本海を眺望できる「余部鉄橋展望台『空の駅』」となっており、餘部駅にもつながっている。
*3 香住東港からの海上タクシー:小型船で定員も少なく、貸切なので、必ず事前に予約が必要。履物も滑りやすいものは避け、しぶきで濡れることもあるので、衣服や持ち物についても注意が必要。
*4 但馬御火浦:伝承では、神功皇后が熊襲との戦いの際、越前(福井県)から仲哀天皇がいる長門(山口県)に向かう途中、日が暮れてしまったが、気比大神の火の導きで、三尾浦に入ることができたとし、それ以降三尾浦を「御火浦」としたという。しかし、その後大火を恐れ「三尾」に戻したともいわれている。また、隠岐に流される後鳥羽上皇も逗留したとの説もあるが、いずれも神話・伝承の域をでない。
*5 釣鐘洞門:マグマが貫入した岩脈に沿ってできた海食洞。奥行き110m。洞内は十字に交差しており、その交差部はドーム状に発達している。
*6 三尾大島:三尾港の東側の小さな岬の沖、すぐのところに浮かんでいる。高さ60m、周囲1kmの小島。地層に貫入したマグマによって形成された流紋岩の岩山で、一部では玄武岩の岩脈も入り込んでいる。このため、柱状節理の大規模な発達が島全体で見られる。島は古くから海上安全の神として信仰の対象となってきており、島内には弁財天が祀られた厳島神社がある。無人島。
*7 三尾港からの海上タクシー:小型船で定員も少なく、貸切なので、必ず事前に予約が必要。履物も滑りやすいものは避け、しぶきで濡れることもあるので、衣服や持ち物についても注意が必要。海上タクシーの発着場所が三尾集落の奥にあり、集落内の道路が狭いので、車の運転には十分な注意が必要。