加賀東谷の町並みかがひがしたにのまちなみ

加賀市南部の山間部は、近世には大聖寺藩の奥山方に属し、藩の御用炭を生産しており、近代から昭和前期にかけても大半の集落が炭焼きを主産業としていた。昭和30年代以降、ダム建設や、災害、離村などにより失われた集落があるなかで、大日山を源とする動橋(いぶりはし)川と杉ノ水川の上流域に点在する荒谷(あらたに)、今立(いまだち)、大土(おおづち)、杉水(すぎのみず)の4集落からなる加賀東谷は、豊かな山林や、集落間のつながりを示す河川や旧道等と共に、炭焼きの山村集落独特の歴史的環境を良好に残しており、重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。
 保存地区は、東西約5,280m、南北約4,950m、面積約1.518km2の広い範囲にわたり、4集落及びこれらを結ぶ河川、旧道から成る。各集落とも、地形に合わせて敷かれた道に沿って宅地を開き、その周辺の比較的平坦な土地を耕地とし、周辺の山林を背景に、狭隘な谷筋集落に独特な集落景観を見せる。主屋は、加賀地方に広く見られる前広間型の間取りを持つ2階建ての切妻造妻入で、4面に下屋を廻らし、大屋根には煙出しを設け、屋根と庇を凍害や塩害に強い赤褐色の桟瓦で葺く。統一的な外観に加え、部屋境に太い通し柱を立てる強固な軸組も、特徴の一つを成す。
 なお、 荒谷、今立、大土と水系の異なる杉水の間には、県政100周年記念事業として1974(昭和49)年に開園した「県民の森」があり、キャンプやバーベキューが楽しめる。
#

みどころ

加賀地方の農家の特徴を発展させた近代以降の煙出しのついた赤瓦屋根の古民家群が、石積み、石造物、樹木、旧道、水路、河川等の工作物や自然物と一体となって独特な歴史的風致を形成している様子は4集落で共通して見ることができるが、それぞれのたたずまいは違いがある。
 荒谷はこの地区のかつての中心地で、動橋川と南側の山裾の間に宅地が形成され、大正期の県道整備後に建てられた主屋は県道に面した形で配置されている。
 今立は県道などに沿って正面を向ける主屋が建ち並び、4集落の中で伝統的建造物が最も高い密度で残っている。
 大土は道路の行き止まりにあり、盆地状の地形に建物が点在するため、ほかの3集落と異なる独特の景観を有しており、のどかな山村の雰囲気を醸し出している。
 杉水は標高300m前後で4集落の中で最も高く、集落の中心を流れる杉水川脇を走る県道沿いに古民家が並び、それを活用した資料館や飲食店などがある。なお、この地区の県道は、今立-杉水間を除いて1890(明治23)年頃までに大八車が通れるように拡幅・改修されたとされ、明治前期から板屋に瓦ぶきの家が建ち始めたが、大正末期まではワラぶき、カヤぶきの家が多くあり、昭和30年代頃までに現在のような家に変わったといわれている。
#

補足情報

*パンフレットや現地での案内標識などが十分とはいえず、事前にしっかりと資料収集したり、現地の店舗で当日の様子を聞くなどすることが必要である。
*山中温泉から九谷ダム、九谷磁器窯跡(国史跡)を経て東谷地区を一周すると約30kmのコースとなる。アップダウンや屈折が多いが、今立の「いしかわ加賀サイクルステーション」(古民家カフェ「まれびと」)には電動貸自転車がある。