代官山だいかんやま

代官山は、渋谷台地の南西端にあり、目黒川から段丘状に土地がせり上がった場所に位置する。ちょうど台地の尾根部分が旧山手通りにあたり、その尾根の崖線に沿うように西郷山公園をはじめ、緑豊かな住宅地が広がっている。渋谷駅から東急東横線で1駅目の代官山駅周辺から住宅地にかけて、洗練されたレストランや気軽に立ち寄れるカフェやデリ、雑貨店やギャラリーなど、個性的な店が立ち並ぶものの、銀座や原宿のような商業地ではなく、魅力的な暮らしの場としての個性が際立つ。
 そこに至るには、まずこの地の特性が大きく影響しているといわれる。台地の上に位置することから眺望もよく、起伏に富んだ地形が貴族や富豪に好まれ、明治時代初期から西郷隆盛の弟である西郷従道邸や、岩倉具視の別宅を購入したという政治家で実業家の根津嘉一郎別宅、日本銀行総裁の山本達雄別宅などの大邸宅が並び、お屋敷町として発展していったのだ。昭和初期の時点で、代官山地区の約7割以上をわずか40人の大地主が所有していたというから、いかに大邸宅が連なっていたかがわかる。その片鱗を見ることができるのが、旧朝倉家住宅だ。東京府議会議長などを務めた朝倉虎治郎によって1919(大正8)年に建てられ、2005(平成17)年に国の重要文化財に指定された旧家には、崖線を利用した回遊式庭園があり、内部を見学できる施設として現存している。かつては富士山まで望めたという土蔵に付随する主屋では、意匠を凝らした欄間や襖、板戸の絵画などが見られる。代官山散策の際には、ぜひ立ち寄りたい場所だ。
 緑豊かな住宅街が現在のような個性あふれる町に変わるきっかけとなったのが、ヒルサイドテラスの登場だ。1967(昭和42)年から最終期の「ヒルサイドウエスト」が竣工する1998(平成10)年までおよそ30年をかけ、第1期から第7期まで段階的に建設された。最初のヒルサイドテラスは、朝倉家の建物があった場所に建てられ、住居と店舗、オフィスからなる複合建築。設計者は世界的にも有名な建築家の槙文彦氏だ。起伏に富んだ地形と樹木や緑を生かし、解放感あふれる回遊性のある空間は他に類がなく、建築界だけでなく都市設計の分野でも高く評価された。その近代的なアーバンデザインの手法は、居心地のよい都会の風景の好例として代官山のイメージづくりにも貢献し、超高層ビルが林立するターミナル駅にはない風景を代官山にもたらした。その後の街づくりにおいても、低層階ビルの構想や自然を感じる街並みは維持されている。
 代官山には旧跡も多く、弥生時代後期の住居の遺構は区立猿楽古代住居跡公園として整備されている。また、代官山ヒルサイドテラスの敷地内にも2つの円墳の猿楽塚があり、北塚は直径約20m、高さ約5mで、6~7世紀のものと推測され、南塚とともに渋谷区の史跡となっており、現在の町名・猿楽町の起源ともなっている。代官山は歴史と自然、現代が溶けあう稀有な街といえる。
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みどころ

現在のように、デザイナーズファッションや高級アクセサリーを扱う店のほか、レストランやカフェ、ビアバーなどが集まり、話題のファッションストリートとして注目されるようになったのは、1967(昭和42)年に始まった、槙文彦による代官山ヒルサイドテラス*の開発である。以降、ラ・フェンテ代官山*、代官山アドレス*、代官山NOMADO*、蔦屋*など、個性的で、複合的機能を持つ施設が続々と誕生した。それらの店を巡るショッピングも楽しいが、軽食やスイーツをテイクアウトして西郷山公園まで散歩するのも良い。
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補足情報

*旧朝倉邸:東京府議会議長や渋谷区議会議長を務めた朝倉虎治郎の住宅。1919(大正8)年の建造。縦長窓を持つ洋間、3つの座敷で構成される杉の間、茶室などが、広大な庭に面して雁行型に配置されている。かつての武蔵野の面影を残す。敷地面積は5,419mと大きく、国の重要文化財に指定されている。所有は文化庁で、渋谷区が管理している。
*ヒルサイドテラス:槙文彦設計、1967(昭和42)年創建の第一期A・B棟から1992(平成4)年のG棟の完成まで旧山手通り沿いに建てられた、住居・店舗・オフィスの複合建築。D棟に隣接するデンマーク大使館も槙文彦の設計による。
*ラ・フェンテ代官山:2000(平成12)年12月竣工のファッションプラザ。
*代官山アドレス:2000(平成12)年オープン。旧同潤会代官山アパートの跡地に建つ。施設はタワーマンション、商業施設、渋谷区代官山スポーツプラザ、代官山公園からなる。
*代官山NOMADO:2007(平成19)年開業。アコースティック・ライブハウス。ピアノやギターなどの弾き語り、アコースティック・バンドの演奏が楽しめる。
*蔦屋:2011(平成23)年開業。全国にチェーン展開する蔦屋が運営する、2階建て3棟からなる本の殿堂。映画、音楽、旅のコンシェルジュをおき、その分野のすべての相談にのる。BOOK&CAFEでは、購入前の本をコーヒーを飲みながら読むことができる。書く楽しみを提供する筆記用具の文具コーナーもある。
関連リンク GO TOKYO 東京の観光公式サイト(WEBサイト)
参考文献 GO TOKYO 東京の観光公式サイト(WEBサイト)
「代官山ステキガイド」2007年版

2025年06月現在

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