あんこう鍋あんこうなべ

深海魚でグロテスクな姿をしたアンコウ*は日本の近海の各地で獲れ、現在、水揚げが圧倒的に多いのは山口県の下関港で、茨城県の平潟、大津、久慈、那珂湊などの各港を合わせても及ばない。しかし、栄養たっぷりの黒潮で育ち、冬に南下する冷たい親潮で脂がのった肝が肥大化する常磐沖のアンコウは、絶品だとされる。
 日本においてはアンコウは古くから食され、江戸初期の貝原益軒の「大和草本」*に「坂東ニ多シ尤モ珍賞ス」とし「味甚スクレタリ上品トス」とすでに書かれており、当時、江戸や関東では一般的なものだったことがわかる。
 アンコウのさばき方は「吊るし切り」という独特のもので、身体が柔らかくヌルヌルとしているため吊るしてさばく。現在でも市場やイベントなどで見ることができる。調理方法は共酢や鍋がよいとされる。焼味噌と酢にアンコウの肝をすりこみ、これをタレにアンコウの皮と肉をつけて食べるのが共酢であるが、やはりアンコウ鍋が冬の味覚としては最高だ。アンコウ鍋はもともと、この地方の漁師料理として、出汁や水を入れずにアンコウの肝から出た水分だけで具材を煮込む「どぶ汁」から始まったといわれている。アンコウ鍋に比べクセはあるものの濃厚な味であり、どぶ汁発祥の地と言われる北茨城市でこれを味わうことができる店が多い。その他大洗から日立にかけての海岸や水戸の旅館、料亭、民宿でもどぶ汁やあんこう鍋が味わえる。時期は11~3月。
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みどころ

北大路魯山人は、アンコウを「脂肪、ゼラチンに富んでいて、なかなかしゃれた食べ物」とし、「ざらにある魚でありながら、鍋料理中もっとも乙なものとされ、高級層にも下級層にも賞味されている。しかも、それが骨以外捨てどころのないという魚で、肉を除いてはことごとくうまいところだらけ」だと絶賛している。「珍しく雅俗混合の趣味を有し、味にも、見た目にも、ユーモアたっぷりで、親しめることおびただしい」とまで付言している。
 東京の老舗で味わうアンコウ鍋ももちろん結構だが、ぜひ、現地でアンコウの漁場である常磐沖の荒波を眺めながら、アンコウ鍋の原点である漁師料理のどぶ汁も試してもらいたい。
 漁業関係者や行政が東日本大震災の風評被害を乗り越えるため、自主基準を定め「茨城あんこう」のブランド化を目指し、品質の維持向上に取り組み、郷土料理としての誇りもより一層高まっている。(志賀 典人)
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補足情報

*アンコウ:日本の市場に出回るアンコウには、キアンコウとクツアンコウがあるが、キアンコウは本アンコウとも呼ばれ美味だとされている。常磐沖のアンコウはキアンコウが多いとされている。
*大和草本:1709(宝永7)年に刊行された。
*北茨木市には日本で唯一のあんこう研究所、あんこうコラーゲン風呂などをもつ宿もあり、毎年多くのマスメディアに紹介されている。また、あんこう研究所で開発したあん肝ラーメンは、地元のイベントでも大人気。