黒森歌舞伎くろもりかぶき

JR羽越本線酒田駅から南に10kmほどの酒田市黒森に伝わる農村歌舞伎。起源は不詳だが、江戸時代中期の享保年間(1716~1736年)ころからはじめられ、黒森日枝神社*の祭礼(旧暦の小正月)に合わせ、境内の常設の舞台で、毎年2月15日と17日に奉納上演される。演じるのはすべて「妻堂連中」*という地元住民。伝承演目は、現在、高田馬場十八番切・義経千本桜・仮名手本忠臣蔵・奥州安達原・加藤千代萩など50種ほど。江戸や上方歌舞伎とは異なった演出、演技法もみられ地元独自に伝承されてきたことがわかる。幕末から近代にかけて全国的に流行した典型的な「地芝居」である。雪の降る中演じられる芝居は、「雪中芝居」「寒中芝居」とも言われる。
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みどころ

雪の上に藁やゴザを敷いた桟敷(客席)で、防寒具に身を包みながら観劇する様子はいかにも農村歌舞伎らしい。とくに雪が降り、終演近くに薄暮れていく芝居の光景は幻想的とさえ思わせる。江戸や上方歌舞伎には見られない素朴な古い形式をとどめ、江戸時代から庶民に根付いていた地芝居としての歌舞伎の本質を垣間見ることができる。
 本狂言の前に黒森小学校の児童たちが少年太鼓や少年歌舞伎を披露し、伝統芸能の伝承に向け、一生懸命な姿をみせてくれる。(志賀 典人)
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補足情報

*黒森日枝神社:1381(弘和元または永徳元)年に近江国坂本の日吉山王権現の分霊を勧請。祭神は少名彦名命。境内には黒森歌舞伎用の常設舞台があり、4月29日の春の例大祭では、黒森歌舞伎の来年の演目を告知する子どもたちによる渡御行列も行なわれる。
*妻堂連中:座員約50名。原則として黒森地区の住民だけが座員になることができ、親から子へと代々受け継いできている。日枝神社の2月の例祭、奉納上演に向け、年間の行事があるため、地元民にとっては生活の一部となっている。