栗駒山くりこまやま

奥羽山脈のほぼ中央に位置し、岩手・宮城・秋田の3県にまたがる1,626mの山で、岩手県側では須川(すかわ)岳、秋田県側では大日(だいにち)岳とも呼んでいる*。那須火山帯*に属し、複雑な山容の休火山で、かつては八万地獄、毒気地獄などと呼ばれ、この山に入った者は生きて帰ることがないといわれた。現在でも北斜面中腹にはたくさんの硫気孔があり、たえず蒸気を出している。
 第四紀のたび重なる火山活動によって形成された複式火山だが、その後の浸食が激しく、外輪山は南壁を残すだけで複式火山としての火山形態を認めるのは難しい。外輪山東端の大日岳が栗駒火山中の最高峰である。カルデラ*はここから北側に馬蹄形に開かれているが、中央火口丘の剣岳は高さ1,100mに過ぎず円錐状の原形も失われている。
 2008(平成20)年6月8日に発生した「平成20年岩手・宮城内陸地震」では、落石や土砂崩れ、土石流が多く発生し、地形が変動するほどの影響があり、人的被害もあった。
 中央火口丘の剣岳を中心に龍泉ヶ原・名残ヶ原などの湿原があり、ここに湿原植物の群落*が見られる。南麓の世界谷地も湿原植物の群落地として知られる。また、カモシカ・ツキノワグマなどの動物のほか、山麓部のブナ林には多くの鳥類が見られる。
 6月下旬から夏にかけて高山植物のお花畑となり、本格的な登山シーズンを迎える。紅葉は9月下旬からはじまり、10月中旬が見ごろである。
 登山道のコース*が複数あり、初心者から中上級者までバラエティに富んだ登山が楽しめる山として人気である。特に山頂からの展望はすばらしく、鳥海山・月山・蔵王連峰・駒ヶ岳・岩手山・早池峰山など東北の名だたる山々を、パノラマのように望むことができる。季節としては秋の紅葉に人気が集中しており、登山者だけではなく、紅葉狩りを目的とした観光客が多く来訪する。
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みどころ

秋の紅葉シーズンは、「神の絨毯」と称される赤色の紅葉が見事で、多くの観光客で賑わうのもうなずける。周囲をブナ林に覆われた須川湖から見ると、木々の紅葉となだらかな稜線の栗駒山の姿が水面にも映えてことさら美しい。絶好の写真スポットとなっている。
 登山愛好家にとっては比較的低山でありながらも、沢を渡り稜線を歩く東栗駒コースや山間の秘湯「湯浜温泉」から標高差1,000mを上る湯浜コース、高山植物と森を進む須川・産沼コース、眺望が素晴らしい天馬尾根コースなど多彩な魅力にあふれた登山コースがあり人気である。ピークハイクだけではなく、沢、稜線、高山植物、ブナ林、湿地、古道といったキーワードでトレッキング・ハイキングが楽しめる山として注目したい。
 また、栗駒山麓ジオパーク、ゆざわジオパークに属しており、噴火による大地の変動を50万年前まで紐解き伝える活動が行われている。大地の変動と人間活動を読み解いていくアカデミックな学びを得られることで魅力が向上している。
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補足情報

*栗駒の名の起こりは、宮城県の栗原地方では春になると山の斜面に駒の形をした残雪が見られるからといわれる。
*那須火山帯:南は浅間山付近から北は北海道の樽前山あたりまで、ほぼ東北の中央部を貫く火山帯である。八甲田山・八幡平など東北の多くの火山がこれに属しているが、日本海側は鳥海火山帯が通っている。
*カルデラ:このカルデラの外輪部は浸食が激しく、山頂部から虚空蔵岳、秣(まぐさ)岳へと続く一帯にわずかに残されているだけである。
*湿原植物の群落:主なものはミズバショウ・ワタスゲ・タテヤマリンドウ・ニッコウキスゲなどで、特にニッコウキスゲとミズバショウは大群落をつくっている。
*登山道のコース:須川・小安・温湯・駒ノ湯など山麓にある温泉を基地として登山コースがあるが、ポピュラーなのは須川温泉や駒ノ湯からのルートである(須川温泉…1時間30分/4km…山頂・いわかがみ平…1時間30分/3km…山頂)。なお、須川コース登山道は、昭和湖付近の火山ガス(硫化水素)濃度が高いことから、「苔花台(たいかだい)~天狗平(てんぐだいら)の区間」が立入禁止となっている。(2019(平成31)年4月23日、岩手県環境生活部自然保護課発表)

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