岩手山いわてさん

盛岡市の北西約22km、十和田八幡平国立公園の南西部に大きくすそ野を広げる成層火山*。那須火山帯*に属し、第四紀に噴出したものといわれる。少なくとも7回の大規模山体崩壊が発生し、その崩壊堆積物が山麓を広く覆っている。山体崩壊の回数は国内の活火山の中で最多である。東西2つの火山群のうち、西岩手の方が古く、その火口原には八ツ目湿原と火口湖の御苗代(おなわしろ)湖、それに火口湖の御釜湖がある。東岩手は西岩手のカルデラ*壁から新たに噴出したもので、そのときに現在の山容を形成した。また噴火の規模について明らかにされているのは、1686(貞亨3)年の山頂噴火と1732(享保16~17)年の山腹噴火である。
 標高2,038mは、岩手県の最高峰。平野部のどこからでも望めるこの山は、富士山型の秀麗な山容から、南部富士・岩手富士の別名で親しまれ、むかしも今もふるさとの山として岩手県の象微的な存在となっている。また、盛岡側に長く裾を引く山容から南部片富士の別名もある。
 中腹以上は高山植物の宝庫である。特に標高1,800m付近の不動平と頂上付近の約28万m2が岩手山高山植物帯として天然記念物に指定され、多くの高山植物をみることができる。また西岩手の八ツ目湿原にも多い。
 頂上付近は数度の噴火により複雑な地形となり、八幡平方面から見る山容は同一の山とは思えぬ荒々しさをもつ。山体は東岩手と西岩手の2つの火山群からなり、最高峰は東岩手山の薬師岳である。
 信仰登山道だった東麓の滝沢市の柳沢口と、リフトのある南麓の雫石町の網張口が代表的コースである。
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みどころ

どこから登っても山頂まで長時間の登山になる岩手山は、巨大なクレーターや噴出口跡、溶岩塊があったりと噴火を繰り返してきた岩手山の歴史が感じられる。高山らしい雰囲気があり、冒険している気分になる山である。山頂部の御鉢一帯の石仏、妙高岳付近の岩手山神社の奥宮などから、信仰の山であることがよく分かる。登山することでより岩手山の魅力を感じられるのはもちろんだが、町中から遠望して岩手県の人々にとっての存在感に想いを馳せて眺めるのが好きだ。
 盛岡市内の北上川にかかる開運橋、旭橋、夕顔瀬橋からは、岸辺の花々とともに秀麗な岩手山を望むことができる。また、小岩井農場(雫石町、滝沢市)にある咲き誇る一本桜と、その後ろにそびえる雪をいただいた岩手山の風景には魅了される。
 深田久弥は「日本百名山」の中で、石川啄木と岩手山についてこう述べている。「後年流離の生活を送った彼の眼底には、いつも北上川の岸べから望んだ岩手山の姿があったに違いない。-ふるさとの山に向ひて 言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな- 盛岡の風景は岩手山によって生きている。」と。
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補足情報

*成層火山: 中心火道から溶岩や火山砕屑物を繰り返し噴火することで形成される円錐形の火山。円錐火山は世界の火山の60%以上あるとされ、富士山をはじめ日本でも最も多く見られる。活動初期は静穏で玄武岩溶を噴出。中・後期は安山岩質に変わり、活動は爆発的になる。
*那須火山帯:南は浅間山付近から北は北海道の樽前山あたりまで、ほぼ東北の中央部を貫く火山帯である。八甲田山・八幡平など東北の多くの火山がこれに属しているが、日本海側は鳥海火山帯が通っている。
*カルデラ:火山が溶岩などを噴出し、内部に生じた空洞が陥没してほぼ同形の盆地となったもの。

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