八幡平はちまんたい

県都盛岡市から北西方向に直線で約38km、岩手県と秋田県にまたがる高原で、奥羽山脈北部に位置する。東の茶臼岳(1,578m)、南の畚岳(1,578m)、西の焼山(1,366m)などを含めた地域を八幡平と呼ぶが、狭義にはこの高原のほぼ中央、1,614mの頂が八幡平山頂である。
 山域は、「十和田八幡平国立公園」に指定され、中でも山頂付近は「特別保護地区」に指定されている。なだらかな山容からかつては楯状火山(アスピーテ)*とされていたが、現在は成層火山*に分類される。複数の火山から成り立ち、浸食や爆発が繰り返されることによって、ゆるやかな高原台地が形成された。
 現在も、泥火山や噴気、温泉の噴出などの火山現象が活発である。八幡沼・ガマ沼などの火口湖が点在し、その周辺は高山植物の咲き乱れる高層湿原*となっている。水芭蕉・ミツガシワ・モウセンゴケなどの湿原植物が群落をなし、また、焼山ではガンコウラン・コケモモなどの高山植物の群落も見られる。6月には雪渓から水芭蕉が咲き出し、7月中旬になると八幡沼付近は高山植物の花盛りになる。8月は天気が安定し、また、涼しい気候で観光・登山の適期。紅葉は9月中旬~10月初旬で、10月下旬には初雪を見る。
 一帯は、植生密度が日本一と言われるオオシラビソ*の樹海となっている。山頂付近では季節風の影響により背が低く変形している樹木が多くみられ、厳冬期には樹氷を形成する。八幡平へのアクセスには、アスピーテライン*を利用するのが一般的である。ドライブルートとしても人気が高く、国立公園の優れた景観を手軽に楽しむことができるのも魅力である。
 見返峠駐車場からは、八幡平頂上まで遊歩道が整備されている。一般には山頂周辺のハイキングで、高山植物や国立公園らしい景観を十分に楽しむことができる。展望は南が開けており、鬼ガ城の峰を連ねる岩手山と、その右手には裏岩手の山々や秋田駒を望む。上級者向けとして、裏岩手縦走路で八幡平から岩手山方面へのロングトレイルも可能である。展望地は源太森、茶臼岳、畚岳が優れている。
 アスピーテラインは、例年4月中旬に冬期封鎖が解除となるが、中腹から上はまだ雪におおわれ、雪の回廊を楽しむことができる。周辺には、後生掛・蒸の湯・大深・大沼・藤七など湯治場として利用されてきた温泉が点在し、貴重な文化景観となっている。
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みどころ

ブナやダケカンバ、アオモリトドマツ林が広がり、点在する池塘や湿原に高山植物が咲き、アオモリトドマツの樹海に広がる湿原や湖、岩手山を眺望しながら手軽に山歩きを楽しめる。
八幡平山頂付近にある火口湖である八幡沼は、背の低いオオシラビソ・コメツガなどの原生林と湿原に囲まれて、周辺は神秘的なムードが漂う。八幡平散策の中心地で、7~8月にはコバイケイソウやモミジカラマツ、ミヤマキンポウゲ、ミツガシワ、イワイチョウ、ニッコウキスゲ、ワタスゲ、チングルマなどのお花畑が広がる。深田久弥は「日本百名山」の中で、「・・・八幡平の真価は、高原逍遙にあるだろう。一枚の大きな平坦な原ではなく、緩い傾斜を持った高低のある高原で、気持ちのいい岱を一つ横切るとみごとな原始林へ入ったり、一つの丘を越すと、思いがけなく沼があったりして、その変化のある風景が面白い。」と述べている。遊歩道が周辺をめぐっているので、山頂とあわせて散策したい。
 登山やスキーといったアクティビティの要素だけではなく、八幡平アスピーテラインという全長約27kmのドライブで手軽に楽しめる道があり、4月中旬、冬期間の通行禁止が解除されると道路の両側に数mの雪が残る雪の回廊をドライブすることができる。
 東北最大級の自然の宝庫で、語りつくせないほどの魅力的な観光地である。
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補足情報

*楯状火山:粘性の極めて小さい玄武岩質の溶岩からなる、楯を伏せたような形の傾斜の緩やかな火山。高原と呼ばれるものが多く、長野県の霧ヶ峰がこの代表的なもの。
*成層火山: 中心火道から溶岩や火山砕屑物を繰り返し噴火することで形成される円錐形の火山。円錐火山は世界の火山の60%以上あるとされ、富士山をはじめ日本でも最も多く見られる。活動初期は静穏で玄武岩溶を噴出。中・後期は安山岩質に変わり、活動は爆発的になる。
*高層湿原:低温・過湿で塩類の乏しい貧栄養の所にできる湿原。ミズゴケが多く、泥炭化が進んで盛り上がった所ができる。高山や高緯度地方に多い。
*オオシラビソ:アオモリトドマツの名で知られる寒地性針葉樹。八甲田山のものは強風のため奇形を呈しているものが多い。
*アスピーテライン:八幡平を横断する全長約27kmの山岳道路。八幡平が楯状火山(アスピーテ)なのでこの名がある。オオシラビソの樹海や、湿原や湖沼が車窓に展開する舗装された快適な観光道路であり、標高差600mを登るもので、山岳としての八幡平を一般観光客にまで開放した。