尻屋崎しりやざき

下北半島の北東端であり、津軽海峡をはさんで北海道恵山岬と相対している。岬付近の海域は、岩礁が多く、潮の目*にもなっているために、むかしから船の墓場として恐れられてきた。岬の先端には高さ32.8mの尻屋埼灯台*がある。
 岬付近の台地は緑の草原に牛馬が群れ、明るく牧歌的な風景である。放牧されている馬は寒立馬*(かんだちめ)とよばれる田名部駒*(たなぶこま)である。1930(昭和5)年150頭を数えたが、1995(平成7)年には9頭まで激減した。その後の保護政策により現在(2023年)は17頭が放牧、飼育されている。放牧場は約670haと広く、寒立馬は気ままに移動しているので時にはその姿を探す必要がある。尻屋埼灯台へのアプローチ道路には放牧地のためゲートがあり、日が暮れると入ることができない。
 JR大湊線大湊駅から北東約31km、40分の位置にゲートがある。
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みどころ

白亜のレンガ造りの尻屋埼灯台は東北地方最初の灯台であり、1906(明治39)年日本初の自家発電の電気式灯台となった。周辺の草原と合わせ明るい景観である。灯台の128段の階段を上った先からは津軽海峡、太平洋を一望できる。この地域は夜間の立ち入り禁止であるが夏の時期にはイカ釣り船の漁火が美しいという。
 灯台の手前はかつての南部藩の牧場もあり、極寒にも耐えられる寒立馬は今でも健在、群れでのんびり草をはむ。厳冬期*には雪原に立ち強風に耐える寒立馬。誰よりも先に春を待っているように思える。さいはての地「尻屋崎」で粗食に耐えながら力強く立ちつくす姿は、命の尊さと自然に生きるものの躍動を感じさせてくれる。また春の出産シーズンは、親子が寄り添って草を食む愛くるしさで、ほのぼのとした気持ちにさせられる。
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補足情報

*潮の目:暖流と寒流がぶつかり合うところ。濃霧が発生しやすいが、好漁場である場合が多い。
*尻屋埼灯台:1876年イギリス人ブラントンの設計になる灯台。光度は53万カンデラ、光達約34㎞、等級第2等レンズ、見学可。尻屋埼灯台は、工事期間3年4ヶ月を費やし1876(明治9)年10月20日に点灯開始した、高さ32.8mを誇る日本一高いレンガ灯台。
*寒立馬:「寒立」はカモシカが冬季に山地の高いところで長時間雪中に立ちつくす様を表すマタギ言葉で、寒風吹きすさぶ尻屋崎の雪原で野放馬がじっと立っている様子が似ているためという。
*田名部駒:南部藩で飼われていた在来種である南部馬の血を唯一受け継いでいる馬種。純血の南部馬は昭和初期に絶滅してしまっている。小柄で寒気と粗食に耐え、持久力にすぐれている。ばん馬や軍用馬などとして使われてきたもの。
*厳冬期:冬期間は放牧地が尻屋崎の南東の越冬放牧地「アタカ」に移動しており入り口のゲートが異なるので注意。