摩周湖ましゅうこ

釧網本線摩周駅から摩周湖*1第3展望台まで北へ道道52号線経由で約10km、同じく川湯温泉駅から第1展望台まで南東へ約10km。水の出入の見られぬ勾玉状の湖(長径約7km、短径約3km、面積19.6km2)で、湖心にカムイッシュと呼ばれる小島が浮かぶ。湖面標高は352m、最大深度は212mで、現在の透明度*2は20m前後とされる。周囲は150~350mのカルデラ*3壁の断崖で、東岸にカムイヌプリ(摩周岳・標高857m)がそびえる。
 屈斜路カルデラ(東西径26km、南北径20km)の東壁上に約3.4万年前から成層火山として成長した摩周火山が約7千年前の大規模噴火でカルデラを生成し、その後、カムイヌプリの噴火によってカルデラの一部が埋まったものの、残りの窪地に水が溜まり湖が形成されたといわれている。
 GEMS/Water*4の国際的なモニタリング地点として日本で唯一登録されている湖沼であり、毎年水質調査が行われている。
 西岸には第1・第3展望台があり、北東岸に裏摩周展望台がある。付近は濃霧*5が発生しやすく、「霧の摩周湖」*6と歌われるように展望台から見下ろしても一面乳白色の霧に覆われる日もある。展望台へは、冬季は通行止めとなる道路区間もあるので事前の確認が必要。
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みどころ

「放浪記」で知られる小説家林芙美子は「此鏡のやうな湖心にはカムイシユと云ふ黒子のやうな島があり、まるで浮いてゐるやうであつた。去來する雲の姿が露西亞の映畫のやうに明るく見えて、波一ツない靜けさである。湖の向うには摩周の劔のやうな頂上が雲の中へ隱れてゐるやうに見えた。湖岸は降りてゆくにむづかしい絶壁で、遠く地底に眺める湖だけに暗く秀いでゝゐる」と摩周湖の景観を描写している。
 摩周湖が霧の晴れ間に顔を出す湖面は「摩周ブルー」と言われる。深い藍色の湖面は神秘的であり、湖水の微妙な色の変化の美しさに、世界的にも最も清澄な湖のひとつであるといわれることも肯ける。晴れた日に風が凪ぐと、摩周湖の全景や「カムイヌプリ(摩周岳)」の雄大な眺めが広がり、湖全体が夏空やカルデラ壁の緑を映し出し、「摩周ブルー」をより一層深く際立たせる。また、夏期に数回しかみられないが、霧の中でも、カルデラ壁から白い滝のように一気に流れ込む「滝霧」*7は圧巻だ。
 また、第1展望台からは湖越しに斜里岳の雄姿を望むことができ、第3展望台からは湖の反対側に硫黄山、屈斜路湖、藻琴山など屈斜路カルデラの雄大な眺望も楽しめる。
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補足情報

*1 摩周湖:摩周湖の地名の語源は諸説があり、定かではない。アイヌの人々は、キンタン・カムイ・ト(山にある神の湖)と呼んでいたとされ、「マシュウ」とは呼んでいなかったという。諸説のひとつとして、湖中にあるこの地で見失った孫を探しさまよい悲しみと疲労で動けなくなり湖中の小島になってしまったというカムイイシュの伝説から、「マシュ(小島のおばあさん)」というものもあるが、定かではない。
*2 透明度:1931年の測定で41.6mを記録しており、当時は透明度世界一位だった。
*3 カルデラ:ラテン語の「caldaria」が由来。スペイン語やポルトガル語では「鍋」を意味する。火山の噴火に際し、マグマの急激な噴出でマグマ溜まりの天井が崩壊することにより、火口部の地表にできる直径2km以上の窪地のことを指す。この窪地に水が溜ってできたのがカルデラ湖。
*4 GEMS/Water:国連環境計画(UNEP)や世界保健機関(WHO)などの国際機関によって進められている、淡水水質の監視プロジェクト。
*5 濃霧:摩周湖に霧が発生する原因は季節、時間により異なる。その代表的な事例としては、夜の放射冷却によって湖面の空気が冷やされるときに発生し湖面から立ち昇る「放射霧」や、水蒸気を含んだ空気が山の斜面に沿って上昇する時に、上の方で冷えて発生する「滑昇霧」などがあるが、摩周湖でもっとも特徴的なのは、「移入霧」とされている。これは夏期に釧路沖で暖流と寒流がぶつかり霧が発生し、内陸へと流れ込んだもので、カルデラ壁の一番低い第1展望台付近からから湖に入り込んで来るものを指す。
*6「霧の摩周湖」:1966(昭和41)年発売。作詞水島哲、作曲平尾昌晃、歌手布施明。「霧にだかれて しずかに眠る 星も見えない 湖にひとり・・・」で始まる、この楽曲が大ヒットし、摩周湖の名が全国的に知られるきっかけになった。これにより当時は摩周湖の濃霧自体が観光の目的のひとつになったともいう。
*7「滝霧」:第1展望台付近から流れ込む「移入霧」のなかでも激しい流れのものを指す。

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