阿寒湖あかんこ

JR根室本線釧路駅から北へ約65km、雄阿寒岳(標高1370m)、雌阿寒岳(標高1499m)などの山並みの懐に抱かれ横たわる、やや菱形をした湖。湖岸の出入りは複雑で、北方からイベシベツ川、西方から尻駒別川といった数多くの河川が流入し、東南から阿寒川となって流れ出る。湖にはオンネモシリ(大島)・ポンモシリ(小島)・ヤタイモシリ・チュウルイモシリ(島)*1が浮かぶ。南岸の阿寒湖温泉*2周辺以外はエゾマツ・トドマツ・ダケカンバなどの原生的な混交林がうっそうと湖岸まで迫る。
 数十万~15万年前の火山活動によってできた長径24km、短径13kmという広大な阿寒カルデラのなかの「古阿寒湖」が、約1万年前に雄阿寒岳の噴火による火山周縁部の沈降と噴出物で分断された。そうして誕生した堰止湖が、現在の阿寒湖と、パンケトー、ペンケトーである。
 特別天然記念物マリモの住む湖としても知られているが、現在では、マリモは湖北部のチュウルイ湾及びキネタンペ湾、水深1~2mあたりに生育するだけである。チュウルイモシリ(島)にはマリモ展示観察センター*3があり、マリモの観察ができる。毎年10月上旬には「マリモまつり」も開催されている。また、アイヌにとって神魚であるヒメマスの原産湖であり、ワカサギの養殖も行われている。
 阿寒湖温泉街の外れ、森林の入り口には阿寒湖畔エコミュージアムセンター*4があり、ボッケ(泥火山)*5をはじめとした阿寒地域の特徴である火山と森と湖を気軽に体験できる「湖のこみち」「森のこみち」が整備されているほか、湖畔には「白湯山自然探勝路」もある。また、湖一周の遊覧船やモーターボートも楽しめる。
 阿寒湖へのアクセスは、釧路駅発着(釧路空港経由)の定期路線バス、釧路空港発着の阿寒エアポートライナーのほか、北見からも直通バスが通じている。
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みどころ

山懐に抱かれ満々と水を湛える湖水と、その周囲に広がるエゾマツ・トドマツを主体とした原生的な森林とが見事に調和し雄大な景観を呈しており、ことに紅葉時は一段と彩りが豊かになり魅力的。
 阿寒湖畔の「湖のみち」遊歩道には幕末の探検家松浦武四郎*6の「久摺(くすり)日誌」から採録した詩碑があり、「水面風収夕照間 小舟撑棹沿崖還 怱落銀峯千仞影 是吾昨日所攀山」(水面の風も収まり夕日が照らす中、周辺の崖に沿い小舟を操り回ると、雪で銀色に輝く峰の高い影が湖面におとしている。この山は、吾が昨日登った山である)と、小舟から眺めた水面に映る雄阿寒岳などの景観の素晴らしさを詠んでいる。この景観は現在も遊覧船から見ることができる。また、雄阿寒岳の雄姿は温泉街の湖畔から湖水越しに楽しめる。
 温泉街の西側にあるアイヌコタンで民芸品店などを覗いてみると、独創的な芸術性の高い作品やアイヌ文様による美しい刺繍作品をはじめ、ウッドクラフトやアクセサリー小物、伝統楽器ムックリなどが多種多彩に並べられており、ショッピングには格好。
 また、「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」*7では、国の重要無形文化財に指定されているアイヌ古式舞踊などを見ることができ、アイヌ文化に触れる良い機会となる。
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補足情報

*1チュウルイモシリ(島):アイヌ語でチュウルイ(流れの速い)、モシリ(島)という意味。
*2阿寒湖温泉:1858(安政5)年に探検家、松浦武四郎がこの地を踏査した際には、アイヌの人々がすでに古くから利用していたという。温泉の泉質は単純泉、硫黄化水素泉で泉温は38~85℃。宿泊施設は10数軒。
*3マリモ展示観察センター:特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」の生態を紹介するさまざまな展示のほか、減少を続けるマリモの保護や増殖を目指した研究の取り組みを観覧できる。入館有料。遊覧船などが立ち寄る。
*4阿寒湖畔エコミュージアムセンター:阿寒摩周国立公園阿寒地区の豊かな自然を主に展示し、アイヌ文化についても紹介。阿寒地域の樹木の実物大標本、阿寒地域の地史を紹介するプチシアターなどがあり、マリモや阿寒湖の魚類の生態展示もしている。入館無料。冬にはスノーシュー(長靴、ストック)、歩くスキー(専用シューズ、登山用スパッツ、ストック)などをレンタルしてくれる。有料。
*5ボッケ(泥火山):アイヌ語で「ポフケ」(煮え立つという意味)からつけられた地名。ボッケは、地下から泥が火山ガスとともに吹き出し、地上に盛り上がりを作ったり、あぶくの膜を破裂させたりする現象で、吹き出す泥の温度は97℃ほど。
*6松浦武四郎:幕末の探検家。伊勢国(三重県)の人。蝦夷地の事情を調べ、明治にはいり開拓判官となったが、新政府のアイヌ政策に同調せず辞任。著書に「蝦夷日記」がある。1818(文政元)年~1888(明治21)年。
*7「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」:舞台はかがり火の炎が燃えさかり、「アイヌ古式舞踊」、デジタルアートとアイヌ古式舞踊を融合したプログラム「ロストカムイ」などが迫力満点に演じられる。ステージ後方は屋外へとつながっており、舞台に深い奥行きを与えるオープンな構造となっている。座席数は332席、後部立見観覧数は約 120人。公演は有料。