釧路湿原くしろしつげん

屈斜路湖を水源とする釧路川の下流域に広がる低層湿原*1。釧路市など1市2町1村にまたがる総面積約200km2
*2の日本最大の湿原である。1980(昭和55)年にラムサール条約登録湿地となり、1987(昭和62)年に28番目の国立公園に指定された。
 湿原の成因としては、この地は約1万年前から6千年前までの間、気温の上昇に伴い海進(陸地に海水が入り込む)があり、約6千年前には現在の湿原の最奥まで海水が入り込み全て海となったといわれる。その後、徐々に海退(海水が引くこと)が進み、約4千年前には現在の海岸線付近が砂州によって閉ざされ淡水湖化し、その湖に湿性植物が生えるとともに周辺から土砂が流れこむことにより、泥炭が次第に堆積し、湿原化したとされる。成因の名残りの海跡湖である塘路湖、シラルトロ湖、達古武湖*3が湿原の東側に広がる。
ここには水生、水辺の動物も多く、タンチョウはじめエゾセンニュウ・ベニマシコ・アオサギなど日本産鳥類の3分の1に近い約160種が生息するほか、キタサンショウウオ・エゾカオジロトンボ・イトウなども見られる。また、植物学的にも低層湿原の貴重な植生が見られ、ヨシの草地やハンノキ林を中心に、ヒメカイウ・エゾゼンテイカ・ネムロコウホネなど約700種の植物が繁茂する。
 なお、タンチョウおよび、湿原内の約50km2はその繁殖地として国の天然記念物に指定されている。
 展望地としては、湿原の東側にある細岡展望台や西側にある釧路湿原展望台など5か所*⁴が整備されていて、多方面から湿原を眺望することができる。動植物の展示施設は温根内ビジターセンターなど7か所*5ある。湿原周辺の各所には散策路や遊歩道も整備されているほか、カヌーや釣り、サイクリング、キャンプなどが楽しめる施設も多い。
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みどころ

各所の展望台からは、湿原に広汎に繁茂するヨシ、散在するハンノキ林、蛇行する河川などから構成される広大な自然のままの景観を眺望することができ、その広がりは驚嘆に値する。また、時間帯により刻々と変わる湿原の色合いや、蛇行する河川の煌めきもみどころだ。春の新緑、夏の濃緑、秋の黄金色、冬の雪景色など季節ごとの湿原の色彩や眺望の変化も楽しみたいものだ。
 湿原の自然に直接触れ合うにはカヌークルーズがおすすめ。北海道アウトドアガイドの資格を有するアクティビティ施設や専門業者に事前に予約をしておくのが良いだろう。また、湿原の中(釧路~塘路、一部の便で川湯温泉)をのんびりと走るJR北海道の「くしろ湿原ノロッコ号」*6は展望車も連結され、自然を満喫しながらの鉄路を楽しむことができる。
 この広大な湿原の自然が開発されなかった一因に、霧の多い気候で稲作には不向きなため水田開発が進まなかったことがあるが、一方では、周辺地域における産業開発と気候の温暖化などが相まって、湿原の面積減少や乾燥化などが現在も進んでいるのも事実である。このため、2003(平成15)年に「釧路湿原自然再生協議会」が立ち上げられ、住民、関係団体や行政機関などが協力し、人工の森や放棄農地を自然林や湿原に戻すなどの取り組みを進めている。
 自然再生のイベントは釧路湿原のあちらこちらで時々開催されている。水質を安定させ、天然のダムとして水害から暮らしを守り、沿岸域の海藻や魚貝類を豊かに育み、CO₂を吸収し、多くの命を支える釧路湿原の計り知れない価値を守る活動に実際に参加してみれば、一歩踏み込んだ学びが得られるだろう。
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補足情報

*1 低層湿原:流入する水が多く地下の水位が高いことから、地下水によって直接的に涵養されている湿原。比較的栄養を多く含んでいる水が流入するため、ヨシやスゲ類の優占が見られることが多い。釧路湿原においては、低層湿原が80%を占めている。
*2 約200km2:大正時代は約250km2あったとされるが、湿原は年々に減少しており、環境省を中心に再生プロジェクトで保存維持活動を行っている。
*3 塘路湖、シラルトロ湖、達古武湖:塘路湖(標茶町)は周囲18km、面積6.27km2、最大深度7m。シラルトロ湖(標茶町)は、周囲9.8km、面積1.8km2、最大深度3m。達古武湖(釧路町)は周囲約5km、面積1km2、最大水深約3m。
*4 釧路湿原展望台など5か所:細岡展望台からは釧路川の大きな蛇行と釧路湿原の広がりや、湿原の北側には雄阿寒岳・雌阿寒岳を望む。釧路市湿原展望台からは展望室や屋上から湿原や市街の広がりを眺めることができ、湿原に関する展示施設もあり、館内には湿原を再現したジオラマのほか、釧路湿原の成り立ちや動植物などのパネルを展示している。北斗展望地は釧路湿原の西側に位置し、サバンナのような湿原を一望できるスポット。春先には、朝日とともに霧に包まれた幻想的な湿原を見ることができる。コッタロ湿原展望台からはヨシ・スゲ湿原の広がりや蛇行するコッタロ川と散在する無数の小さな沼を眺望できる。
サルボ展望台・サルルン展望台は塘路湖の北側にあり、塘路湖と周辺の4つの沼(サルルントー、ポントー、エオルトー、マクントー)を眺望できる。
*5 温根内ビジターセンターなど7か所:温根内ビジターセンターは釧路湿原の西側、道道53号線沿いにある駐車場から250mほど歩いたところにあり、情報収集や休憩などができる。また、こちらを起点として、釧路湿原の中を散策できる約2kmのバリアフリー木道が設置されている。釧路湿原野生生物保護センターは環境省の展示研究施設で、展示施設ではシマフクロウやタンチョウなどの野生生物と、湿地の生態系やその保護などについてパネルやジオラマなどで紹介。塘路湖エコミュージアムセンターは塘路湖の南岸にあり、釧路湿原の多様性に富んだ自然や動植物の姿などを紹介。鶴居伊藤タンチョウサンクチュアリは日本野鳥の会が運営する施設。タンチョウとその生息地を保護するため設置されている。そのほか、シラルトロ自然情報館、細岡ビジターズ・ラウンジ、鶴見台がある。
*6 「くしろ湿原ノロッコ号」:4月末~10月上旬まで運行。1日1~4往復。季節によっては運休日もあるので、事前に確認する必要がある。9月末の3日間ほど、夕方便が「夕陽ノロッコ号」として運行される。