屋久島の森やくしまのもり

屋久島は鹿児島の南方、九州本土最南端佐多岬から南南西約60kmの洋上に位置する、ほぼ円形をした島。周囲約130kmで、その9割が森林。九州最高峰の標高1,936mの宮之浦岳をはじめ1,000m以上の高峰が40座以上あり、八重岳とよばれるほど山が連なる。
 島の土台となっているのは、砂岩や泥岩などの堆積岩が重なった日向層群(熊毛層群)とよばれる地層。そこに、地下で活動が盛んになったマグマが入り込んだのが1550万年ほど前で、ゆっくり冷えて花崗岩になり、次第に隆起し日向層群の堆積岩を押し上げて海上に姿を現した*。
 1000年に1mほどの速いスピードで持ち上がったことで高い山々が連なる山岳島になり、サンゴ礁が見られる海岸から、雪と氷に覆われる山頂まで、気候にしたがって植生が変化する垂直分布が見られるのが大きな特徴。雨量も多く、多様な植物の世界が広がっている。1993(平成5)年に日本で最初の世界自然遺産*に登録された。
 海岸部は亜熱帯性のガジュマル・ヤシなどが生い茂り、標高500mまでは照葉樹の原生林、標高500~600mが照葉樹林から屋久杉の森への移行帯で、1,500m以上はヤクシマシャクナゲやヤクザサが群生する。動物はヤクザルとヤクシカが多い。屋久島の森は決して手つかずの森ではなく、人々が古くから入り、伐採し、木材を利用*してきた場でもある。
 広大な森を整備した「ヤクスギランド」(荒川地区)は、屋久杉をはじめモミやツガ、ヒメシャラなどの巨木が連なる標高1,000~1,300mの原生林が、「白谷雲水峡」(白谷地区)は屋久杉や照葉樹の天然林と苔が広がる。
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みどころ

亜熱帯地域でありながら、山の上は北国のような気候でもある屋久島では、多種多様な自然が味わえる。苔に沢、滝、照葉樹に小杉林、そして樹齢数千年の屋久杉まで、見るべきものは豊富。
 標高1000mを超える山々へ登るには本格的な装備やそれなりの体力が必要だ。ヤクスギランドや白谷雲水峡も、ガイド付きツアーで巡るのがおすすめ。ガイドの導きにより屋久島の森の奥深さがよくわかる。270haの広大な森を整備したヤクスギランドは、木道が整備され、気軽に楽しめる30分と50分のコースから、登山道を行く80分、150分、210分のコースまで、体調や装備に合わせて選んで楽しむことができる。苔と水の清らかな流れが独特の雰囲気を醸し出す白谷雲水峡は、しっとりとした潤いに満ちた空間の心地よさがいつまでも印象に残る場所である。
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補足情報

*花崗岩が他の岩石に比べて軽いことや、南東から日本列島を押しているフィリピン海プレートの作用が、隆起現象にかかわったと考えられている。
*世界遺産:世界遺産条約(1972(昭和47)年)に基づき、人類共通の宝物として未来の世代に引き継いでいくべき文化財や遺跡、自然環境として、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会により登録された有形の資産。文化遺産・自然遺産・複合遺産の3種がある。
*成長するのに年月がかかる屋久杉は材質が緻密で樹脂分が多く、腐りにくいのが特徴。そのため江戸時代以降、伐採した屋久杉を短冊形の平木にして島外に運び、主に屋根材として人々の暮らしを支えるとともに、年貢としても納められていた。