アヤメ平あやめだいら

鳩待峠の東約4km、標高1,900m近い高地に開けた高層湿原*。アヤメ平の名があるがアヤメはなく、葉がアヤメに似ているキンコウカが8月に黄色の花を咲かせる。大小無数の池塘が点在し、かつては地上の楽園と歌われたが、ハイカーに荒らされてしまった。近年、木道以外は立入禁止とし、東京電力*を中心に回復作業を進めてきて、もとの姿を取りもどしつつある。
 湿原からの展望はよく、周囲の山々はもちろん、奥日光の山並みも望める。アヤメ平につづく中ノ原・横田代などの湿原もよい。
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みどころ

標高の高い高地に広がる高層湿原で、周りには視界を遮るものがないために、周囲の山々の景観が素晴らしい。特に鳩待峠側から登って行くと、樹林帯を抜けた後に突然視界が開け、広々とした高層湿原となにも遮るもののないパノラマが目に飛び込んできて、大感激すること間違いない。草原の向こうには大空が広がり、燧ケ岳さえも山頂部だけかわいらしく顔を出す。
 尾瀬のメインルートからはずれているため訪れる人も少なく、静寂の中での素晴らしい景観を心行くまで堪能することができる。
 人のふみ跡で乾燥して台無しになってしまった湿原を、東京電力の人たちを中心に1969(昭和44)年ころから試行錯誤を繰り返しながら回復作業を進めてきている。自然を大事にする保護姿勢のお手本だろう。(林 清)
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補足情報

*高層湿原:低温・過湿で塩類の乏しい貧栄養の所にできる湿原。ミズゴケが多く、泥炭化が進んで盛り上がった所ができる。高山や高緯度地方に多い。
*東京電力:1916(大正5)年、当時の電力会社(利根発電)が尾瀬の豊富な水を活かして水力発電を進めていくために、尾瀬の群馬県側の土地(群馬県側だけは当時から私有地となっていた)を取得、1922(大正11)年には関東水電が水利権(河川や湖沼の水を利用する権利)を取得した。しかしその後、水利権問題や自然保護問題が持ち上がり、水力電力計画を中止した。その後も土地所有を引き継いでいる東京電力が尾瀬の自然保護運動に取り組んでいる。